「心筋梗塞は撲滅できるかもしれない」 
第8報 「LDL粒子生成の秘密」

第7報で予告した質問の回答の前に 「LDL粒子生成の秘密」について解説します。

第3報で述べたように脂質(コレステロールや中性脂肪等)は水(血液)に溶けないためリポタンパク質の服を着て水(血液)に溶けており酸化LDLとはその服が汚れたものであると説明しました。
何故汚れるのかを説明するにはリポタンパク質の生成の秘密を知っておく必要があるので第8報ではこれをまず解説します。

良く知られている話として、食べ物として摂取した脂質(主に中性脂肪等)は膵臓で作られ十二指腸に分泌された膵リパーゼにより一旦脂肪酸とグリセロールおよび脂肪酸とコレステロール等に加水分解され小腸から吸収され、ここでリポタンパク質のアポB-48 の服を着たカイロマイクロン(CM)が作られます(中性脂肪88%、コレステロールエステル3%, リン脂質他9%)。このことは一般的に言われているように食事によりコレステロールが増えることは殆どないということを意味します。言い換えると今まで言われていた卵を食べるとコレステロールが増えるということは間違いだったということになります。

このカイロマイクロン(CM)はアポB48の服を着たリポタンパク質でリンパ管を経て血菅に入り、リポタンパク質のアポC群とアポEを受け取り成熟します。(カイロマイクロンの生成) この成熟したカイロマイクロン(CM)は、受け取ったアポEをターゲットとする各組織細胞の受容体(アポEレセプター)により各細胞に取り込まれます。余ったカイロマイクロン(CM)は肝臓に取り込まれます。このためこのカイロマイクロン(CM)の消化吸収は早く普通食後2時間くらいで血液中からなくなります。

肝臓では取り込んだカイロマイクロン(CM)と肝臓内で新たに合成したコレステロールを原料としてアポB100を着た低密度リポタンパク質(VLDL)が作られ血液中に分泌されますが肝臓で作られたばかりの超低密度リポタンパク質(VLDL)は未熟で、血液中でアポC群とアポEを獲得して粒子径約30nmの球形の粒子になり、中性脂肪やコレステロール等を全身の細胞に供給することになります。(中性脂肪55%、コレステロール他45%)。

この結果VLDL粒子が減少するため肝臓内でVLDLの原料の中性脂肪の回収「肝性リパーゼ(HTGL)による回収」とコレステロールエステルが増産されます。肝臓では胆汁酸を生成するためその原料としてのコレステロールも必要なので、高比重リポタンパク質(HDL)で動脈や各組織で使われなくなったコレステロールをかき集めて肝臓に戻すシステム「コレステロール逆転送(CETP)システム」で回収します。

ここで各組織の細胞が栄養素として中性脂肪やコレステロール等をどのように取り込んでいるかを簡単に説明します。重要なのはリポタンパクリパーゼ(LPL)の存在です。

(注 : リパーゼとは脂質分解酵素で一般的には前述した膵臓から分泌される膵リパーゼが良く知られていますが、ここからは血液中にはあまり出現しないリポタンパクリパーゼ(LPL)の話です。全身の細胞に中性脂肪やコレステロールを供給する非常に重要なリポタンパクリパーゼ(LPL)には何故か固有の名前がありません(単にリポタンパクリパーゼ(LPL)と呼んでください)。 これ以外のリパーゼには膵リパーゼとか肝性リパーゼ(HTGL)などと言う固有の.名前が付けられています。

この酵素「リポタンパクリパーゼ(LPL)」 はすべての細胞膜から放出されるのではなく各細胞の触手のような構造(鎖でつながれたような細胞結合型酵素:アンカー型)をしており、リポタンパク質を覆い隠すように包んだ上でVLDL中の中性脂肪やコレステロールを水解し中のアポEやアポBのC末端を露出させ(この状態をここでは活性化=易酸化と呼ぶことにした)、アポBやEの受容体(レセプター)でそれぞれの細胞に取り込まれます。しかしこの重要な酵素「リポタンパクリパーゼ(LPL)」の血液中の正常値は細胞結合型酵素のため明確化できていません。従って血液中に存在するLPLは「ちぎれて」浮遊した断片だけですから簡単に測定できず、その全体像もわかっておりません。でも動脈硬化や心筋梗塞の予防について議論をするには避けて通れません。

ところでこのリポタンパクリパーゼ(LPL)に接触したリポタンパク粒子すべてが細胞に取り込まれるわけではなく一部の中性脂肪やアポC群やアポEを失ったVLDLは、アポB100のみを着る低密度リポ蛋白質(LDL)と(なります(中性脂肪15%、コレステロール他85%)……これがLDL粒子誕生の秘密です。

【リポタンパク質の代謝図】

このLDLはコレステロール含有量が80%と多く細胞にコレステロールを供給する中心的なリポタンパク質と言われている根拠です。ところが図に示す「リポタンパク質の代謝図」を見て頂くとわかるようにLDL粒子のみを直接産生する臓器が無いことがわかります。このリポタンパク質の代謝図は人間を含めて全ての動物に共通しています。ただ人類は脳発達の過程で大量のコレステロールを必要としたためアポB100をもつLDLリポタンパク質代謝システムを獲得し脳細胞を活発化させ長寿を達成できたものと思われます。このLDL粒子を直接産生する臓器が無いのがLDL粒子の隠された秘密です。

さて第8報の本題の 「易酸化VLDL, LDL」 の説明に入ります。
「易酸化VLDL, LDL」とは、アポEやアポBのC末端を露出させたままのリポ単白質を、ここでは活性化(=易酸化VLDL、LDL)されたリポ単白質と呼ぶことにしました。本来、活性化されたリポタンパク質は細胞のアポEやBの受容体(レセプター)で全部細胞に取り込めたら酸化LDL等ができるわけがないが、そこがこのシステムの唯一の 「欠点」 となっています。

この活性化されたリポタンパク質が血液中を循環すると、このアポBの服は血液中の活性酸素等で容易に酸化されることになります。こアポBのC末端は非常に酸化されやすいといわれています。この仮説は第7報で紹介した特許が主張している根拠です。
以上より易酸化VLDL, LDLがどういうものかをご理解して頂けたものと思います。

第9報では何故この易酸化VLDL, LDLができるかを説明します。